生物学では、研究過程で動画や音声データを記録し、利用することが以前から行われてきました。いくつかの博物館や研究機関では、それらのデータを体系的に収集し、保存することも行われています。一方で、デジタル化による記録媒体のめまぐるしい移り変わりとデータ数量の増加、それに伴う収蔵・整理作業の負担増、著作権の複雑化、といった問題も顕在しています。このシンポジウムでは動画・音声データをアーカイブする機関や研究者から最前線の事例をご紹介頂き、その意義と課題を整理しつつ、近年進歩する映像認識技術などの適用も含めた将来展望について議論します。
日時:3月5日(日)13:00〜17:00
会場:大阪市立自然史博物館 ネイチャーホール(花と緑と自然の情報センター2階)アクセス
申込み・参加費:不要
主催:大阪市立自然史博物館
共催:NPO法人西日本自然史系博物館ネットワーク
【プログラム】
13:00-13:10 趣旨説明
13:10-13:50
「深海生物・環境調査映像のアーカイブとWeb公開」
齋藤秀亮(国立研究開発法人海洋研究開発機構)
13:50-14:30
「自然の音と音環境コレクション」
大庭照代(千葉県立中央博物館)
14:30-15:10
「野生チンパンジーの映像エソグラム」
座馬耕一郎(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
15:10-15:30 休憩
15:30-16:00
「生物学の動画・音声アーカイブに共通する意義と課題の整理」
石田 惣(大阪市立自然史博物館)
16:00-16:40
「映像認識技術の現状と生物映像への適用可能性」
柳井啓司(電気通信大学大学院情報学専攻)
16:40-17:00 総合討論
17:00 閉会
【各演題要旨】
「深海生物・環境調査映像のアーカイブとWeb公開」(齋藤秀亮>
国立研究開発法人海洋研究開発機構では、保有する潜水船や探査機を用いた深海調査時に深海映像や画像を撮影し、3万時間分以上の映像をアーカイブしている。これらの映像は撮影されている深海生物名などのタグを付け、Webサイト「深海映像・画像アーカイブス」でインターネットに公開している。本発表では、膨大な深海調査映像のアーカイブや公開における当サイトでの取り組みについて紹介する。
「自然の音と音環境コレクション」(大庭照代)
千葉県立中央博物館では、平成元年に「自然の音と音環境コレクション」の収集を始め、国内外で独自に録音した鳥や虫の個別音と各地の音環境の他、録音家からの寄贈、CD等の出版物等を含む。録音方式や機器の変遷に伴い多様な媒体と音声ファイルを受入れ、WAVEファイル化を行った。生物名や環境等で検索できるデータベース上での試聴を目指す一方、千葉県デジタルミュージアム『音の標本箱』等のプログラムが活用されている。
「野生チンパンジーの映像エソグラム」(座馬耕一郎)
アフリカに生息する野生チンパンジーの長期調査地では、道具使用行動や社会行動など、さまざまな「社会的学習を必要とする行動」が報告されており、地域間で共通する/異なる行動は、チンパンジーの文化として知られている。本発表では、野生チンパンジーの多様な行動レパートリーを文字による記載と映像による記録で収めた“Chimpanzee Behavior in the Wild”の編纂経緯を紹介する。
「生物学の動画・音声アーカイブに共通する意義と課題の整理」(石田 惣)
体系的に収蔵登録された動画・音声データは、研究者のマイニングによって新たな研究資源になる可能性があり、教育での活用も期待できる。一方、動画・音声を検索可能とするためのメタデータ付与の手間、ファイル形式の選択、データの保存方法、著作権者からの許諾条件の設定等が共通の課題と言えそうだ。私たちが行った研究者へのアンケート調査の結果も踏まえて、それぞれの課題について解決の道筋を探ってみたい。
「映像認識技術の現状と生物映像への適用可能性」(柳井啓司)
コンピュータビジョンの研究コミュニティでは、50年以上に渡って画像・映像認識の研究が続けられて来たが、近年の深層学習の登場により、その技術は飛躍的な発展を遂げつつある。本講演では、主に映像認識に関して、最新の技術および研究例を紹介し、生物動画への適用可能性について考察する。
【シンポジウムに関する問合せ】
大阪市立自然史博物館 石田 惣
〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-23
tel:06-6697-6221 / fax:06-6697-6225
e-mail: iso@mus-nh.city.osaka.jp
※本シンポジウムはJSPS科研費(JP15H02955「動画を博物館の『標本』として収集・収蔵・利用公開するための課題解決と環境整備」)の進捗及び成果報告として行うものです。